特殊清掃コラム

実例紹介
2024.04.17

賃借人が部屋で自殺!損害賠償と原状回復は誰の責任?

部屋で自殺!損害賠償と原状回復は誰の責任?
貸しているアパートで賃借人が自殺!物件オーナーにとっては絶対に起きてほしくないことですし、出来れば一生避けて通りたいと思う出来事のひとつだと思います。

賃借人の自殺は孤独死より発生件数は少なく部屋に与えるダメージも孤独死ほどではないかも知れませんが、病死と自死とでは忌避感がまるで違うのは想像に難くありません。もし賃借人が部屋で自殺してしまった場合どのような対処をすればいいのか?また原状回復費や損害賠償請求の可否などをお伝えしたいと思います。
 
孤独死と自殺の違い
孤独死と自殺の違い
アパートやマンションの賃貸物件内で起こる死亡事故で代表的な自殺と孤独死ですが、貸してる大家さんからすればどちらも人のしがあった部屋ということは変わりませんが、法律的には若干運用が変わります。

自殺は「故意過失」孤独死は「無過失」でまったく正反対のものになります。自殺の場合の故意過失とは部屋で自殺をすれば部屋を汚すこととなり多くの人に迷惑をかけることになると予見できます、予見できたにも関わらず実行したので過失です。

一方孤独死は自分自身が室内で突然死してしまうことは予見できません、死亡後何日も発見されなくて結果部屋を相当汚してしまうなんて想像もできませんので無過失となります。

原状回復義務はどちらのケースでも等しくありますが、損害賠償請求が出来るのは自殺の場合のみで孤独死のケースでは請求できません。大家さんや管理会社さんは是非覚えておいてほしい知識です。

 

賃借人が部屋で自殺!原状回復は誰の責任?

孤独死に関する損害賠償請求や原状回復に対しての責任やその範囲については別の記事でお知らせしていますので、今回は自殺の場合のついての損害賠償や原状回復の責任と範囲についてお知らせいたします。

人の死に関わる特殊清掃の中でも自殺や殺人は作業員の心理的負担も大きいのですが、それは部屋の関係者も同じで孤独死(病死)に比べると一気に忌避感が大きくなっていきます。

孤独死では亡くなった人はもちろん連帯保証人やご遺族には一切の帰責性(責任)はないと判断されており、原状回復の範囲についても通常の退去と同じように進めれば良い(ご遺体痕の汚れやにおいは完全に取る必要はあります)のですが、この心理的ハードルが高い自殺や殺人が起きた部屋の場合はどのように原状回復を進めれば良いのか、損害賠償請求はされるのか(できるのか)について体験を交え解説していきます。

この記事は法律的なことが関わりますので記事の監修は東京都港区の栃木柳沢樋口法律事務所の弁護士栃木義氏に行っていただきました。
 
自殺と孤独死の違い
自殺と孤独死の大いなる違い
孤独死も自殺も室内で人の死があったことには違いありませんが実は大きな違いがあります。孤独死はあくまでも病死であり自身の意思とはまったく関係なく起きてしまうもので、亡くなった本人はもちろんご遺族にも連帯保証人にも何ら帰責性を問うことができません(帰責性=責任)

一方自殺は自らの意思を持って実行しますので当然責任が生じてきます、これが孤独死と自殺の大いなる違いで後述する損害賠償にかかわる問題となるのです。

なお原状回復については孤独死も自殺も同じように行う必要があることは他のコラムでも述べている通りです。
 

自殺の場合の原状回復の進め方

部屋を退去する時には原状回復をして部屋を返すというのが大原則で義務になっています、原状回復とは入居当時と同じ状態にすること、ただし経年変化や通常損耗分は除くという退去時のルールです。これは孤独死の場合でも自殺の場合でも同じでなんら違いはありませんが、唯一普通退去と違うのは特殊清掃すなわち汚れや臭いを完全に取り除くと言う要素が加わるぐらいです。

自殺も同じでもしご遺体痕で汚れた部分があれば特殊清掃業者を入れて清掃や除菌する必要はありますが、後のことは同じで家財を整理して空室にし全体を掃除して返せば物件の返還という点については完了です。
 
自殺の原状回復
孤独死や自殺の原状回復の完成形
基本的には孤独死や自殺が起きた部屋の原状回復ですが、いったいどこまで何をするべきかとよく聞かれますので以下に示しておきます。

1.部屋の荷物をすべて出して空にする
2.特殊清掃で汚れと臭いを完全に取りきる

普通に退去する場合と変わりはないですが、ご遺体痕由来の汚れと臭いは完全に取りきらないといけないというのが唯一普通退去と違う点です。

逆を言えば汚れと臭いが取りきれていないと不十分ということになり物件の返還が終わらず、場合によってはずっと家賃がかかり続けるということになってしまいます。

そのような事態にならないためにも初期段階の特殊清掃業者選びが大事であることは言うまでもなく、東京近辺であれば私たちまごのてが対応も早く完全消臭が可能ですので是非ご相談ください。
 

原状回復や賠償を行う義務がある人

退去時に部屋の原状回復を行う責任のある人は言うまでもなく本人ですが、本人は死亡しているのですから当然実施することはできませんので、本人に代わる者が行わなければいけません。賃貸の退去の場合に原状回復の義務者となるのは連帯保証人と相続人です。

相続人の場合は相続放棄という必殺技が残ってますので原状回復については連帯保証人のほうが優先度は高いと言えます、ですから部屋の原状回復は保証人が責任を持って行い退去手続きを進めるという流れです。

では、もし自殺による損害賠償を求められた場合はどちらに向けて行われるのでしょうか?このケースは連帯保証人ではなく相続人です。
損害賠償請求も本人に向けて行うというのが原則ですので、本人を相続した者に損害賠償請求されるということです、よく連帯保証人に対して損害賠償請求とするということを耳にするのですが、連帯保証人は部屋の明渡までが責任の範囲となりますので損害賠償は別の物という考え方です。

まとめますと下記のようになります。

原状回復や物件の返還に関する責任=連帯保証人もしくは相続人。
損害賠償請求=相続人。
 

相続人と連帯保証人
連帯保証人は契約、相続人は権利と義務
連帯保証人と相続人を一緒くたに考えてしまうことも少なくありませんが、それぞれの立場が違うことを再確認しておきましょう。

賃貸住宅の連帯保証はいわば「契約」です、契約ですから物件を借りてる期間中はずっと責任が発生し契約終了まで消えることはありません。したがって部屋を明け渡す、原状回復するという責任が一番強いのです。

相続人は本人(故人)の財産を引継ぐ権利があります、そして形ある財産だけではなく本人に帰属していた義務も引継ぎます。賃貸の部屋を綺麗にして返すという義務も相続によって引継いでいるのです。ただし連帯保証人と違って相続人には相続放棄というウルトラCが残されており、もし相続放棄をすれば部屋の原状回復義務そのものが消滅することになるのです。

したがって連帯保証人のほうが部屋の原状回復と返還については重い責任を負っているのです。ただ上記の通り損害賠償請求は連帯保証人にはできません、損害賠償は本人に対して行われるもので部屋の契約とは別次元のことだからです、したがって相続放棄をされた場合は損害賠償請求はできないということになるのです。
 

自殺は損害賠償請求される可能性大!

孤独死も自殺も同じ人の死であることに変わりはありませんが、孤独死と明らかに違うことがひとつあります、それは本人の『意思』です、孤独死は病死ですから本人すら予期していませんし、部屋で倒れ結果的に亡くなってしまったことに何ら責任はありません。

ですが、自殺は本人が明らかな意思を持って実行し、その結果部屋を汚したり破損させることは予見できることから、『故意』と判断されます、たとえばバットで窓ガラスを叩けば割れると分かっていながら叩いて窓を壊した場合は当然弁償しなければいけません、自殺とはそれと同じことです。

ですから自殺は大家さんから損害賠償請求される可能性が高いと考えられます。

部屋で自殺の損害賠償請求の金額は?

まごのてで実際に扱った自殺の特殊清掃でご遺族と大家さんとの間でやり取りされたことを元にお知らせしていきます。
東京都内のアパートの浴室で練炭による自殺が発生、この事件に対する修復までにかかった費用は以下の通りです。

特殊清掃費:45万円 家財撤去費:25万円 ユニットバス交換費用:140万円 合計:210万円。

この費用は原状回復費ですので連帯保証人でもある相続人の親御さんがすべてを異論なく支払いました。さらに大家さんは300万円の損害賠償請求をご遺族に請求したのですが最終的に落ち着いた金額は70万円程度でした。
この件は裁判にはならなかったのですが、双方の弁護士同士で話し合い70万円という決着になったのですが理由は下記の通りでした。

家賃下落分の1万円×24か月の24万円、空室期間6か月×7万円の42万円と言う金額が基礎になったようで、いわゆる大家さんへの慰謝料や建物価値下落分はほとんど加味されなかったようです。

過去の判例に基づいて弾き出した金額のようですが、もし裁判になっても同じようなラインで落ち着いただろうということでした、後に示しますが自殺でも孤独死でも建物に与える影響はないと裁判所は判断していますし、慰謝料も大家さんは業として賃貸運営を行っているのだから、居住者の死亡は予見しておけ(リスクとして織込む)といのが基本的なスタンスのようです。
もちろんケースによって違いはあると思いますが、上記の場合だと空室期間6か月と計算されていますが事件発生から3ヵ月で新たな入居者が決まっていますし、都市部ですからたとえ自殺であってもある程度の期間で周囲の嫌悪感は薄まっていくと判断したと考えられます。

室内自殺の損害賠償請求の裁判例

他の自殺による裁判例の判決もいくつかご紹介いたします。大家さん側からご遺族(相続人)に対して行われた事例です。

1.東京都内の賃貸ワンルームマンションで自殺。
東京地裁は事件後3年間の逸失利益を認めました(1年目全額、2~3年目半額)合計132万円、ただし事件によって生じたとされる建物価値の減少は棄却。

2.仙台市のワンルームアパートで自殺
事件後2年間の逸失利益を認めたが、賃料を下げて募集を行ったところ入居希望者があったため本来の賃料との差額のみという判例、これも建物価値の減少の主張は認められませんでした。

3.東京都内のマンションで殺人事件+犯人が自殺。
この事例も(1)と同じような判決でした。

たとえ殺人や自殺があっても建物価値の減少といわゆる慰謝料については退けられてるのは特徴的です、では併せて孤独死の場合の裁判例もお伝えいたします。

1.東京の賃貸アパートで孤独死が起こり建物価値減少と現状回復費用およそ587万円を求めた損害賠償請求の場合、平成19年3月9日東京地裁での判決は以下の通りです。

借家であっても人間の生活の本拠である以上、病気や老衰による自然死は当然に予測できることであり、借家での自然死につき当然に賃借人に債務不履行や不法行為責任を問うことはできない。(省略)よって貸借人の請求を棄却する。

2.アパートで孤独死が発生し相当日数発見されなくて腐乱化、これにより損害賠償を求めた際の判例(請求額不明)

本件について原状回復費213万円については認めたが、賃借人の善管注意義務違反、不法行為責任は認められないとして、本件貸室の悪臭が消えた後の賃料減額分、本件により隣室賃借人が退去したことによる逸失賃料相当額の請求は棄却した。

賃貸物件オーナーにしてみればかなり厳しい判決と言わざるを得ませんが、裁判所が人が亡くなるのは当り前なんだから孤独死が起こったとしても原状回復をキチンとやれば物件価値はそう下がりませんよ、と裁判所は判断してることがわかります。


連帯保証人の責任の範囲相談

自殺が起きたら大家さんの負担は大きい

上記の判例や法律家の見解を見ますと大家さんにとっては意外と人の死に対する判断が軽いという印象です、私たちの接してきた大家さんは皆さん一様に憔悴しきっていました。特殊清掃をしキレイに原状回復をしたとしてもそれだけでは割り切れないものを抱えてしまってます。

裁判などでは大家さんはなんだから入居者の死亡は織り込みなさいというスタンスはわからなくもありませんが、やはり自殺となると心理的な負担はひじょうに大きいのだと感じます。

住宅とは人の生き死にに関わる場所と言ってるメガ大家さんもいるのですが、それは孤独死(病死)に関してだけ通用する考えで、自ら命を絶つ場を提供した覚えはない!というのが私たちが接した大家さんの見解です。

一昨年所有するマンションの一室で自殺があり、大家さんの依頼でまごのてで特殊清掃をしたのですが、この大家さんの所有するマンションは以前はお母さんが住んでいて思い出深い部屋だった、それを汚されたことが悲しいと泣いていましたし、別の大家さんも孤独死なら仕方ないと思えるが自殺は大事な物件を穢された気持ちだ、できればすべて壊してしまいたいと仰っていました。

裁判所の見解がどうであれ自殺は私たちが考えるより大家さんの気持ちの上での負担が大きいのだと感じました。

自殺、孤独死|大家さんは被害者ではない

大家さんの心理的な負担は大きいのは理解できるのですが、「被害者」というスタンスで挑む大家さんが多いのも事実で、自殺だけに限らず孤独死でも自らを「被害者」と考えてる大家さんは多いです。

気持ちの上で割り切れない、なんとなくわだかまりがある。その気持ちと被害者感情を持つことはまったく別物だと考えます。ご遺族の依頼である自殺の特殊清掃現場で作業をしてると大家さんが飛び込んできてご遺族を怒鳴りつけるシーンに遭遇したことがあります。
大家さんは思いつく限りの罵詈雑言をぶつけ、お前たちの管理不行き届きだ、せっかく買ったアパートをどうしてくれるとまくし立てていました。

誰もがやり場のない怒りや感情はありますが少なくとも大家さんは関係者ではあるけど被害者ではないと思うのです、物件を所有し運営する中で起こり得るリスクと捉える気持ちがなければ物件運営なんてできないと思いますし、裁判例でも「心の中」の思いを判決に反映していないのはやはり物件運営者としてのスタンスを問うてるようにも受けとれます。

孤独死や自殺が起きた部屋、完全な原状回復をします

株式会社まごのては特殊清掃業務一筋に15年の経験がある業界のパイオニア的存在です。特殊清掃をしますという業者は近年増加していますが、正しい手順で進め完全な処理を行える業者はひじょうに少ないのが現状です。

特殊清掃とは汚れや臭いがなくなり部屋としての機能が回復すること、目的はこれしかありません。
この誰でも理解できる目的に向かって完全な消臭や汚れの除去ができるのがまごのてです、もし部屋で人が亡くなり特殊清掃業者を手配する必要があるときは迷わずまごのてへご相談ください。

法律の専門家が在籍する特殊清掃業者

まごのての強みは特殊清掃技術の高さだけではありません、社内に法的知識を持つ有資格者が在籍していることと法律事務所や司法書士事務所と密接なパイプがあることです。法律事務所も単なる形だけの顧問契約ではなくいつでもダイレクトに弁護士先生と話ができますし、費用負担や原状回復トラブルが発生したらすぐに事案ごとの意見書の発行も可能です。

孤独死などに関わる諸問題の周辺も細やかにかつスピーディに解決できるのはまごのての最大の強みです、東京近辺の特殊清掃業者探しでお困りでしたらまずはまごのてにご連絡ください、必ずお役にたちます。

法律の専門家が在籍する特殊清掃業者
記事執筆:

株式会社まごのて 代表取締役
佐々木久史

主に特殊清掃技術の開発や指導に注力しています。まごのては宅地建物取引業の免許を受けており私は専任の宅建士です、また賃管士資格を保有しており不動産取引関係には精通しています。 

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