特殊清掃コラム

実例紹介
2024.08.24

孤独死による損害賠償請求|裁判例をふたつご紹介

孤独死は増加しているといってもまだまだ孤独死に関する大家さんの認識はそう高いものではありません。レアケースだからこそ遭遇した際の衝撃は大きく、時にはご遺族に対して無理難題を言ったり、時には損害賠償を求めるといったことになります。

また通常の原状回復以上のことを求めたり、ドサクサに紛れて内装のグレードアップを目論む大家さんもいます。大事な物件を穢されたと被害者意識を持つ大家さんも多いのですが、裁判所はどんな見解を示しているのかなど孤独死にまつわるトラブル事例を交えてお伝えしようと思います。
 
孤独死に対する裁判所の見解
孤独死が物件運営に与える裁判所の見解
最初に結論から申し上げます。孤独死の事案に対する裁判所の判断ついてですが、まず大原則として賃貸住宅は人の住む場所であるから、いわば生き死にの場を提供している。

したがって孤独死など不慮の事故は賃貸運用をする以上は当然に予測し織り込んでおくべきである、というのが基本的なスタンスです。

そして孤独死によって建物が棄損することもないし物件価値が下がる性質のものではないという判例もあることから、賃料が下がるなどの不利益があったとしても物件そのものの価値が下がることはないと示しています。

賃貸運営を生業としている大家さんにとっては若干厳しい判断ですが、昨今の孤独死の増加傾向から見ても無いにこしたことはないが、起きた時にどうするかは常に考えておいた方が良いのは確かなようです。
 

【体験談】アパート丸ごと建替えを要求した大家さん

今から約10年ぐらい前に杉並区のアパートでご遺族からの依頼でトイレで孤独死という状況の特殊清掃に出向いた際のことです、死後日数は2週間ほどで隣に住む人が臭いで管理会社に通報し死亡が発覚したものです。

亡くなったのは70代後半の女性で、死亡場所はトイレでしたが2部屋あるうちの一部屋は若干物が多いいわゆる倉庫系ゴミ屋敷のような状態でしたが特段不潔というものではありませんでした。

特殊清掃と遺品整理自体は何の障害もなく順調に進み、においもなくなり間もなく引渡しという段になって依頼者の娘さんという人が突然来社されたのです、特殊清掃の作業上なんらかの不備があったかとドキっとしましたが、大家さんから莫大な損害賠償請求がされてるがどうしたらいいかという相談でした。

内容は8室あるアパートすべての建替え、またはその費用に匹敵する金銭の支払いを求めると言うことですから億に近いものです。

その当時私はまだ宅建資格も持っていませんでしたし、法律的なことも何もわからなかったのですが築年40年近いアパートに建替えも何もあったもんじゃない!と思いましたが明言は避けました、結果的にこの出来事が私自身孤独死やその関連する法律に興味を持ち宅建受験と進むことになった出来事でしたのでひじょうに印象に残っています。
 
孤独死の特殊清掃費用負担と損害賠償請求
大家さんは人の良さそうなお婆さん
特殊清掃作業も順調に終わりいよいよ引渡しという日に大家さんもアパートに現れました、近所に住むお婆さんということは聞いており最初はどんな強欲な婆さんなのかなと思っていたのですが、現れた大家さんはとても人の良いお婆ちゃんという印象でした。

少し話してみますとふたつのことがわかりました。ひとつはこのアパート自体が数年前に亡くなったお爺さんとの思い出のものであること、それゆえ愛着もひとしおであること。

もうひとつの理由でなんとなく合点がいったのですが、損害賠償と騒いでるのはこのお婆さんではなく、お婆さんの娘さんであることでした。このようなパターンは多く、当事者ではない外野が張り切ってるというのは相続や交通事故、私たちの近いところだと高齢者宅(実家)のお片付けがそうです、とは言うもののアパートの名義人はお婆さんだし、お婆さん自体も「娘に任せてるんで」と若干責任転嫁とも取れる言動があったので成り行きを見守ることにしました。
 

意外な裁判の結末!ポイントは意見書

そして本当に訴訟提起され裁判が進んだのですが、途中ご遺族の娘さんから特殊清掃の報告書を欲しいということと、可能なら物件に何ら瑕疵はないという内容の意見書がほしいと申し入れがありました、特殊清掃の作業報告書は問題なく提出できますが、特殊清掃業者が出す意見書が通用するのかという疑問があったので、顧問弁護士である栃木先生にお願いし作成していただきました。

孤独死発生からそろそろ1年が経とうかという頃にご遺族の娘さんから連絡があり、1円も払うことなく裁判が終わったということでした、途中2回和解勧告があったそうですが応じずに進めた結果、判決という形ではなく相手方(大家さん)が訴訟の取下げという結果になったそうです。

おそらく訴訟を継続したとしても大家さん側にはなんのメリットもなく、高齢の大家さんには酷と判断したのかもしれません、ご遺族側の弁護士は私たちから出た報告書や意見書からこのご遺族は明け渡しの責任をきちんと果たしておりなんら問題となるものはないと言ってくれたそうです。

この出来事以後、紛争になったり紛争の兆しが見えた時は弁護士発行の意見書を交付するようになったのです。

【孤独死部屋の特殊清掃と消臭】提出書類から読み解く業者の技量

孤独死が起きた部屋の内装のグレードアップを目論んだ大家さん

千葉県浦安市のアパートオーナーが所有する物件で孤独死が発生し、まごのてで特殊清掃を行ったものですが、この大家さんはなんと内装のグレードアップをご遺族に求めました。特殊清掃後に新たに床を新調したり、壁紙を新たな物に貼り替えたりする費用は本来ご遺族には関係ない部分です。

それにもかかわらずキッチン台や洗面台、換気扇やエアコンまで新調しろということをご遺族に私たちから交渉しろと言われたのです。さすがに私たちの口から明らかにガイドライン違反のようなことが言えるはずもなく、いくら特殊清掃の依頼者と言えども無理ですとお断り申し上げたのです。

大家さんは「丸損じゃないか!」「今後3年間告知しなければいけないのに」と激昂されましたが、アパート経営とは孤独死などの事態は当然に織り込んでおけ、というのが裁判所の見解であることから今後賃貸運営を始めようと思う人はそのあたりの知識をしっかり持っておくことが大事だと思います。
 
孤独死で内装のグレードアップ
内装のグレードアップは絶対に認められない
過去には不動産にまつわるトラブルと言えば退去時の原状回復についてが主流でした。普通に生活していたのに壁紙全面交換で30万円請求されたとか、わずかの床の傷でフローリング全部交換などでまかり通っていた時期もあり、入居者が変わるたびに部屋がグレードアップしていったこともあったようです。

今はガイドラインや法整備もしっかりされてますので以前ほどは退去にまつわるトラブルも減りましたが孤独死など特殊な事案ではここぞとばかりになんでもかんでも原状回復要求をする大家さんが少なくありません。心情的に亡くなった居住者が使っていた部屋は新調したいという気持ちはわからなくもないですが法的には認められません。また保険の枠いっぱいに無関係の部分に対しても交換見積もりを出したり、他の項目に付け替えてほしいと言われることもありますが到底認められることではありません。

物件オーナーにとっては不本意極まりないと思いますが、もしものために火災保険の特約や少額短期など孤独死が起きた時のための保険を掛ける、もしくは今入ってる保険がどこまでカバーされるのかは見直しておいたほうが良いでしょう。
 

【判例】損害賠償請求が却下された孤独死

孤独死の損害賠償請求ではすでに判例がいくつか出ており、争点となるのは決まって善管注意義務違反です、善管注意義務違反とは正しくは「善良な管理者の注意義務」の略で自分の物よりワンランク上の注意を払って管理しなさいよというもので法律の中では頻繁に出てきます賃貸住宅であれば民法400条の適用となり、住んでる間は善良な管理者の注意義務を持って部屋を保存しなければならないというものです。

つまり孤独死による損害倍送請求は善管注意義務違反か否かが問われるのですが、こんなのは裁判するまでもなく違反になりません、孤独死はあくまでも病死ですから本人すら予期できません、意思を持って病死した人はいないはずですから当然責任を問うことはできないとなるのです。

孤独死事案についてはいくつか判例が出ておりますが損害賠償の部分で大家側の言い分が100%通ったという判例は見当たりませんでした、注意していただきたいのは原状回復費にまつわる訴訟ではなく損害賠償という点であることをご注意ください、原状回復費(特殊清掃や消臭、リフォーム)については当然ご遺族や連帯保証人に責任があることは別コラムでも書いていますので一読ください。

孤独死で『損害』は発生しないという裁判所の見解

孤独死が関係した訴訟では様々な請求がされるようですが、いわゆる「損害」については認められない傾向にあります、ではどんな内容の請求がなされるのかをピックアップしてみます。
 

  • 建物価値の減少について賠償を求める。
  • 家賃や売却価格が下落する分の補填。
  • 特殊清掃費等の原状回復の費用
     

特殊清掃や原状回復費に対してはご遺族(相続人)や連帯保証人が確実に行わなければいけない義務です、この部分に対して賠償を求められるということは何らかの不備があったかまったく手掛けていないかのどちらかですので抗弁のしようがありません。

家賃の下落分や使用不可期間については下記判例でも書いてますが、一部認められるケースもあるようですが私たちが知ってる限り家賃下落や売却価格が下がることによる紛争はありません、少なくとも素早く特殊清掃と原状回復を行えばこの紛争は起きないと考えます。

そして建物価値減少ついてですが上記の家賃下落や売却価格にかかわる資産的なものではなく、構造上主要な部分への影響のことを指すと考えますが、孤独死で躯体にまで影響を及ぼすことは本来ないですので裁判所としても建物価値減少についての訴えは却下するものと考えられます。

以前私たちが経験したものではゴミ部屋関係で、ゴミを溜めていたことにより湿気が溜まり建物が弱ったと訴えたアパートオーナーがいましたが当然に認められませんでした。つまり裁判所の見解は孤独死で建物は傷まない!としているのです。
 

【判例】遺族に対して一部の請求が認められた

損害賠償という意味合いとは少し違いますが逸失利益と言う点で大家さん側の請求の一部が認められたという判例も存在します。

平成29年の判決では孤独死遺族に対し1年間賃貸不能、そこから更に2年間家賃が減額となった部分を逸失利益として支払えという判決がありました、逸失利益とはその部屋が稼働していれば得られたであろう利益を指します、交通事故の賠償でもこの逸失利益というものが登場します。

つまりこの部屋だと家賃が7万円のところ1年間は貸せない(7万×12=84万円)そして貸せたとしても減額になる、仮に6万円に下がるとしたら1万円を2年分、トータル104万円を支払えというものでした。

この判決も逸失利益までは認められていますが、いわゆる損害賠償(慰謝料)や建物価値減少については棄却されてる点は特筆すべき部分です。

逸失利益が認められたこの判例ですが特殊清掃業者目線で見ると疑問点がいくつかあります、まず1年間賃貸不能という意味がわかりません、ご遺族が原状回復(特殊清掃)を行って汚れや臭いを完全に落として物件を返還するのですからこの時点までは家賃が発生しているはずです、たとえこの部分に1年かかったとしても家賃は支払われます、何故なら賃借権(部屋を借りる権利)は相続されるからです。

この判例から垣間見えるのは特殊清掃が不十分、すなわち汚れやにおいが残っていたのではないかと思うのです、それであれば1年間賃貸不能というジャッジをされてもおかしくはありません。
やはり特殊清掃業者の選び方はこのような場面でも影響があるということは忘れないでおきましょう。

上記コラムは大家さん向けに書きましたが、ご遺族が特殊清掃業者を手配する場合も同じで安く上げたいために適当な処理をする特殊清掃業者を選んだり素人考えで進めると大損するかも知れないということは覚えておきましょう。

☆今回ご紹介したふたつの判例は棚田行政書士の不動産大学の動画を元に記載しました。☆孤独死や自殺、殺人などがあった場合どこまで告知義務が必要?損害賠償請求は誰にいくらできるの?

原状回復の責任の範囲で争った裁判の結末

孤独死関連の裁判では物件オーナーが損害賠償などを求めるものに注目しがちですが、原状回復の範囲について争われたものもいくつかあります。たとえばご遺族は家財を撤去したが特殊清掃を行わなかったことで争ったものがあります。

ご遺族(連帯保証人)の言い分は家財を撤去し部屋を空にし明け渡したのだからこれ以上のことを行う必要がないという言い分です。この言い分は私たちもよく遭遇する類のものですが、結論から言いますと家財を出して部屋を空にするだけでは不十分で、孤独死があった部屋であるならば、特殊清掃と消臭までやって初めて明け渡しが完了となるのです。

孤独死による紛争解決のための意見書を発行します

孤独死や特殊清掃を含め原状回復では紛争の火種がたくさんあります、費用負担をはじめ慰謝料や損害賠償など訴訟まで発展する例は私たちも経験していますし、特殊清掃業者が遺族から訴えられた例も知っています。

大家さん側から見た場合どうしても「被害者」的な立場で考える傾向にありますが、本来孤独死に関しては誰も被害者ではありませんし慰謝料を求めるような性質でもありません、ただ上記のお婆さん大家のようにお爺さんとの思い出の建物という感情はあるかもしれませんが「被害」ではありません。

大阪のメガ大家さんが孤独死(病死)は今に始まったことではなく今後も増えるし、部屋を貸す事業をする者としては当然にこのような事態は織り込んでおくべきと進言しています。

そして賃借人(連帯保証人やご遺族)は粛々と部屋を明渡すことにことに注力する義務を果たせばいいと考えます、そんな中でもしトラブルが起きたり起きそうな雰囲気の時は私たちからアドバイスをしたり、弁護士に事案ごとの意見書を発行してもらうようにいたします。(弁護士発行意見書:3万円/1事案)
 
画像の説明
大家さんご遺族双方の中に入りアドバイスします
株式会社まごのては宅建士や行政書士が常駐しています、宅建士や行政書士は弁護士のように代理権はありませんが民法を始めとした法律知識を有していますので有益なアドバイスが可能です。

また不動産業の免許も取得(東京都知事(1)109168)していますので、物件の売却や今後どうすればいいかの相談に乗ることも可能です、実際にも特殊清掃費や原状回復費のお金が捻出できないという場合には原状のままマンションや家を買取ることも可能です。

株式会社まごのては特殊清掃関係やゴミ屋敷のお片付け清掃などのあらゆることを完全にカバーできる体制を整えていますので安心してなんでもご相談ください。
 

ご遺族や大家さんの双方にメリットのある特殊清掃業者

私たち株式会社まごのては物件オーナー、ご遺族や連帯保証人どちらの立場の方から見てもメリットがある作業提案を行います。ご依頼自体は大家さん、ご遺族側どちらからもありますが、どちらか一方に有利になるようなことはいたしません。

もしご遺族に対して大家さんが不当な要求を行ったり、理不尽な要求に基づいた作業指示があれば進言いたしますし、ご遺族側が甘く考えていて自分本位な作業を要求した場合も当然進言いたします。

よくあるのはご遺族が孤独死があった事実を隠蔽し退去手続きをしようとしたり、死後日数が少ないから見た目だけなんとかしてくれたらいいというような指示をされることもありますが、私たちの作業ポリシーは一方に不利益を与える可能性があるものはお引受できません、双方が丸く収まり円滑に進むように配慮するのが私たちの基本方針です。
 
孤独死の特殊清掃なら実績豊富なまごのて
東京近辺で孤独死の特殊清掃業者をお探しなら
まごのては特殊清掃や消臭など確かな技術と知識の豊富さでは他の追随を許しません。私たちはけっして安売りはしませんが確実な消臭や清掃をお届けいたします、部屋が部屋としての機能を取り戻し何事もなかったように回復させることができるのは東京近辺の特殊清掃業者でも数社しかありません。

貸してる部屋で孤独死や自殺でお困りの大家さん、身内が部屋で死亡して発見されどうしていいかわからないというご遺族はぜひ私たちにご相談ください。迅速になおかつベストな方法をお電話5分でご案内いたします。
 
記事執筆:

株式会社まごのて 代表取締役
佐々木久史

主に特殊清掃技術の開発や指導に注力しています。まごのては宅地建物取引業の免許を受けており私は専任の宅建士です、また賃管士資格を保有しており不動産取引関係には精通しています。 

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