特殊清掃コラム

実例紹介
2024.02.29

【特殊清掃技術情報】お風呂の孤独死清掃の難易度と心理的負担

お風呂での孤独死の特殊清掃は独特の難しさがあります。やはり狭い空間であることと「お水(お湯)」の中であるというのが特殊清掃を難しくしています。この記事はそんなお風呂の特殊清掃の難しさや具体的な清掃や消臭方法をお伝えしたいと思います。

技術情報として記事を書いていますが、基本的には特殊清掃の技術はそう簡単に教えるものではありませんが、昨今急激に増えている他社が清掃した後のやり直しに端を発しています、どうしていいのかわからない未熟な特殊清掃業者に少しでも清掃や消臭の技術を身に付けてもらいたいと思っています、これは老婆心でもなく、仲間意識でもなく単に特殊清掃業者同士は技術で競い合うべきものという考えが根底にあるからです。

僭越な言い方かもしれませんが、昨今の特殊清掃業界のあり方は本来の姿ではないです、技術の未熟さを棚に上げて逃げ口上やお客を騙すことばかりに専念している風潮があります。そのような状況は我々にとっても追い風とはならず「どうせ噓つきの特掃屋」と一括りにされてしまいかねません。ですから時折り技術情報を発信することにしているのです。
 
お風呂の特殊清掃
お風呂で孤独死が起きる原因
お風呂で亡くなってしまうという例はそう珍しいことではありません、まごのてで行う特殊清掃の2割程度はお風呂やトイレです、季節は夏場より冬場が多い印象で、やはり死因としては急激な温度変化によるヒートショックではないかと思います。中には飲酒して湯につかり眠ってしまい溺死という場合もありました。

タイトルにお風呂で孤独死が起きる原因と書いてますが、人の体の変化は「予定」ができませんのでお風呂、トイレ、居室かかわらず亡くなってしまうことは致し方ありません。それより問題はご遺体発見までに時間がかかってしまうことです、室内でも経過日数が長いとかなり凄惨な部屋の状態になるのですが、お風呂となれば尚更です。

特殊清掃自体も狭い空間の割にやることが多く、また消臭も独特の難しさがあります。お風呂の孤独死現場の凄惨さと特殊清掃の一端をお見せしていきます。
 

お風呂での孤独死現場の凄惨さと浴室の状況

お風呂で亡くなった場合はご遺体の腐敗進行がひじょうに早いです。当然死亡直後は「お湯」ですからその分早いですし、お湯から水になって長く浸かってるといわば水死体のような状況になるのです。表面の腐敗が進みそして体内ではガスが発生し、腐敗した皮膚が破れて臓器が出てどんどんご遺体が溶けていくのです。

ご遺体を回収する警察官もかなり苦労するのか、広範囲に周囲を汚していることが多く、時には脱衣場や廊下や玄関まで腐敗体液をこぼした跡が見受けられます。

浴槽には溶けた臓器や脂が浮き、皮膚や小骨などが沈殿しています、お風呂の栓が抜けてることもありますが排水口に何かが詰まって流れなくなっていることも多いです。

孤独死の特殊清掃実例紹介

お風呂の特殊清掃では何から始めるか?

そんな凄惨な状態のお風呂場では何から手を付けて特殊清掃を進めるのかお伝えします。まず浴槽内の「水」を処理しなければいけません。ご遺体発見まで日数が経過してる場合は蒸発したり少しずつ抜けたりしてほとんど水分がない場合もありますが、半分だけ残っていたり、結構な量の水が残っていたり様々です。

残ってる水が少ない時はバキュームで吸引しますが、水量がある場合は固めて回収します。間違ってもそのまま排水してはいけません、不用意に流すと詰まったり、他の部屋へ臭いを拡散させることにもなりかねません。ですから基本的には固めて回収をします。

給水ポリマーを浴槽に入れて攪拌すると汚水がゼリー状になります。それを掬ってどんどん汚染物容器に入れ密封して運び出すのですが、これが結構大変な作業になります。単身用ワンルームマンションのバスタブで200リットル前後ですから7割の水量が残ってたとして140リットルです、もし30リットルずつ運んだとしても30キロ×5回です、もし5階の階段作業となればそれだけで重労働です。

このようにして浴槽の水を汲み出すことが最初で、その部分さえクリアすれば後は汚れたお風呂の掃除だけ、という感覚です。

浴室特殊清掃の具体的な方法

バスタブの汚水を汲みだしたら清掃に移るのですが、注意したいのは極力汚れは流さないようにしたいところです。出来るだけ拭き取ったり削り取って更に給水ポリマーで固めて汚れを取り除きます。その後は普通のお風呂掃除と同じやり方でいいのですが、まごのてでは高圧洗浄機を使用し汚れを落とす際も桝側もしくは排水口から洗管ホースを入れて洗い流しながら浴槽を高圧洗浄していきます。

高圧洗浄機を使う理由は隙間も洗い流せますし、大まかま汚れは一気に落とすことができます。まごのてではお風呂の特殊清掃の場合は高圧洗浄車で出動します。大型の高圧洗浄機を使って排水管を洗浄するためと、他にも小型の高圧洗浄機やエアコン用洗浄機も駆使します。どうしてもシャワーの水流だけではまかないきれないことが多いので高圧洗浄機は必須です。

すべての汚れを取り切ったら塩素系洗剤で除菌も兼ねて浴室内を丸洗いしていきます、この時注意したいのは外せるものはすべて外して洗いましょう。まごのてではドアや換気扇やシャンプー台すべてバラせるものは全部外して洗います。とにかくこの段階で直接的な汚れやウジ虫やハエの跡まで目視できる汚れは完全に取りきることが大事です。

【消臭技術情報】孤独死の特殊清掃消臭では排水管も注意!

浴室の特殊清掃消臭脱臭の方法

汚れを取ったら消臭作業に移っていくのですが、臭いは二種類あります。ひとつは浮遊してる臭いで残留臭と呼んだりします、もうひとつは染みついた臭いです。特殊清掃ではこの染みついたにおいをどう除去していくかが肝となります。

においは目に見えないのですが、臭い成分と呼ぶ粒子が付着しているわけです、特殊清掃を長年やってくればこのにおい粒子が「見える」ようになってきます。浴室での孤独死であれば当然臭い成分は室内全部にいきわたりますのでくまなくチェックして臭い粒子を除去しないといけません。

臭い成分を含みやすい物としては代表格はホコリです、そして建具などの木の部分とクロスの紙です。ホコリは見落としがちで他社手直し特殊清掃ではホコリの取り残しが多数見られます。ホコリが残ってる場所で多いのはカーテンレールの上、ドアの上部、照明のカバーです、浴室特殊清掃でもドア周りの薄いホコリ汚れが残っていたために臭いを発し続けていたケースもあります。

その他空気の通り道となる通気口やダクトなども注意が必要で、見落としが多い場所です、特に浴室の換気扇は内部まで調べないとウジ虫やハエの死骸が大量に残っていたこともあります。

たったわずかの気配りができるかどうかが特殊清掃が成功するかどうかの分かれ道です、小さなホコリまで見逃さずに取りきり建具などを徹底洗浄すれば染みついた臭いの大半は取れます。あとは奥深くに浸透した臭い粒子を薬剤を使って叩き出し最後は浮遊している臭いをオゾンの高酸化作用で消していけばいいのです。

浴槽やプラスチックに染みた臭いと着色の除去

お風呂での孤独死の場合一番難しいのは浴槽やお風呂場全体に染み付いた臭いをどう取るか、そして着色してしまったバスタブの染みをどう抜くかがポイントになります。マンションをはじめ今の浴室のほとんどはFRP樹脂でできていますから臭いも含むし色も沈着しやすいのです。

まごのての場合は浴槽内は熱いお湯を溜めた中に過酸化水素系のオリジナル薬剤を投入します、市販ならオキシクリーンでも大丈夫です、数日に分けて何度かオキシ水を入れ替えていけば臭いは抜けます。この時点で沈着もどんどん抜けるはずですが沈着がひどい場合は染み抜き剤を湿布して数日浸け置き、さらにメラミンスポンジで擦ればほぼ気にならないレベルまで復元が可能です。

もし追い炊き機能があるなら追い炊き釜内の洗浄も忘れず行いましょう。方法はそう難しくなくオキシ水を追い炊きの穴(カバーは外すこと)ギリギリまで入れ、追い炊きスイッチを押すだけです(温度はMAX設定)数回繰り返せば汚れがどんどん排出されます。

浴室特殊清掃は実はこの工程が一番時間がかかります、何度も現場に足を運んで水を入れ替えなければいけませんし、染み抜き剤の湿布も交換しなければいけません。最低でも3~4日、長いと一週間から10日はかかります。これだけの手間がかかる工程を行う覚悟がないと特殊清掃に手を出すべきではありませんし、安易に安売りをするものでもありません。

他社の特殊清掃後で臭いが取れないため再依頼の浴室

浴室は狭い場所にもかかわらず施工する範囲が意外と多いのと相当の手間がかかることがおわかりいただけると思いますが、それ故に技術的に未熟な特殊清掃業者が行うと臭い戻りや臭いが微かに残るといったことがあります。

バスタブや洗い場に染みついたにおいが取りきれてない、排水口から臭いが上がってくるであるとか、ひどい例だとウジ虫が大量に這い上がってきたなどの特殊清掃不備が見受けられます。

臭い発生源を完全に見落としていた特殊清掃の不備

東京都葛飾区のマンションの浴室で孤独死があり不動産会社の手配で特殊清掃が手配されたようです、完了したと聞いたがどうも臭いが消えていないのでまごのてに相談となったのですが、確実に排水管から臭いが上がってるのと、目視でも簡単に確認できるほどの汚れが残っていました。

他社の特殊清掃後のやり直しほど難しいものはありません、どんな薬剤を使いどんな手法でやったのかがわかりませんし、当初の状況もほとんど知ることができませんので本当に手探りの施工となるのです、せめて作業報告書でもあればと思うのですが完全消臭ができないような特殊清掃業者に報告書など出すはずもなく、経験則で進めるしかありません。

他社施工後の再依頼の料金ですが、たとえ他社で着手していたとしても基本的にはイチからのやり直しですから、元の状態から始めるのとあまり変わらないと思ってください。孤独死発生直後よりにおいなどは軽減されてるのだから安くなるのではと考えるかもしれませんが、手間のかかり方は同じかそれ以上ですのでご了承いただきたいところです。

この部屋の浴室の場合は洗管をしていないことと、バスタブと浴室全体に染み付いた臭いを抜いていないこと、そして最低なのはドア周りのホコリがそのまま、脱衣場の床面にもご遺体痕汚れの取り残しがありました。その後約10日かけて浴室内を再度洗浄したり脱臭を行い完了となりました。

排水管を詰まらせて逃亡した特殊清掃業者

千葉県船橋市のアパートの孤独死現場で今まさに特殊清掃業者が作業をしているが、お風呂の排水管を詰まらせてもうすぐ汚水が溢れてしまいそう!と不動産会社の担当者から連絡がありました。

最初は状況が良くわからなかったのですが、洗い場の中央にある排水管を詰まらせたようで特殊清掃業者もなんとか解消しようと試みてるが、水位が上がってきてるし今にも汚水が溢れて室内に入り込みそうだということでした。なんとか人員を配置して現地にスタッフを飛ばしなんとかリカバリーしましたが、その時点で先に特殊清掃をしていた業者は逃亡した後でした。

外の排水桝から洗管ホースをお風呂場の真下まで突っ込み詰まりを解消し、逃亡した特殊清掃業者が当初行っていた浴室特殊清掃等をすべて引き継いで行ったのでした。何を流したのかは定かではありませんが、ミスをリカバリーせずに逃亡するような特殊清掃業者がいることに驚いた現場でした。

浴室特殊清掃で配慮する作業者の心理的負担

お風呂の特殊清掃は技術的な難易度もさることながら特殊清掃作業員の心理的負担も大きいです。まごのてではお風呂の特殊清掃に携わらせるのはある程度特殊清掃の経験をした者にしか行かせることはありません。やはり見た目のインパクトは相当なものですし、特に冬場など黄色い脂が塊となって浮いてたりしますし、独特のにおいもあります。

居室内の特殊清掃ならチームで動くこともありますが、浴室特殊清掃は基本的には一名作業ですから、不慣れだと心細さで押しつぶされてしまいます。仕事を配置する側も充分な配慮が必要なのです。

浴室の特殊清掃を経験したため退職した者

かつて1名だけ浴室の特殊清掃を経験したばっかりに退職した社員がいます。その人は約1年勤めていて特殊清掃もゴミ屋敷もひと通りの経験を積み、居室内特殊清掃も一次処理から完全脱臭まで一人でやれるようになってきた者でした。

ある日浴室の特殊清掃依頼があったのでその者に行かせることとし、事前のレクチャーもしっかり行い万全の態勢で挑ませたのです。実際作業自体はまったく問題なくこなしたようで、汚水の処理も洗管も問題なくやれたようですが、この浴室特殊清掃の完全消臭をもって退職したいと意思表示してきたのです。

理由は浴室特殊清掃のインパクトは居室の比ではなく、最初に入った時の光景が忘れられないのと、汚水を処理してる際に故人の物と思われる入歯の映像が頭から離れないと言い、もしかしたら自分は特殊清掃に向いてないのではないかと思い込んでしまったということでした。

それぐらい過酷なのが浴室の特殊清掃です、過酷さはどの現場も同じですが繊細な人にはやはりキツイのかもしれません、ちなみにですが、その退職表明した社員はほどなく戻ってきて「やっぱりこれほど達成感がある仕事は他にないので続けます」と今でもバリバリやっています。

臭い発生源をしっかり追求し完全脱臭のまごのて

今回の記事では特殊清掃の具体的な方法を記載しましたが、この記事を読んだからと言ってすぐ実践に役立てれるかと言えばそうでもなく、やはり特殊清掃は常に試行錯誤を繰り返し自分自身のアンテナを高く張り巡らせないとできるものではないと思います。

少し前に他社のやり直し特殊清掃でたまたま施工した会社の人と話すことがありましたが、あの現場はあそこまでの消臭が限界でこれ以上の消臭を求めるのであれば交換しかないと説明したと言っており、技術のなさを棚に上げて逃げ口上のテクニックばかり身に付けてるのは怒りを通り越して呆れるばかりでした。

今でこそ技術情報などと偉そうに言ったり書いたりしていますが、かつては本当に試行錯誤の連続でしたし、本当はにおいなんて消えないんじゃないかと思った時期もありましたが寝ても覚めても消臭のことを考え実験していくごとに成果が上がり技術力が身に付いていったのです。

孤独死のにおいは必ず消臭可能です!

孤独死が原因の消臭は確かに難しいです。消臭剤を撒くだけ、オゾンを回すだけで消えることは絶対にありませんが正しい手順で洗浄していけば必ず消えます。いわゆる死臭や腐乱臭の類はにおいの中でも強いのですが消臭という観点で考えれば確実に消すことができるものです。

むしろタバコ臭や猫臭、香水やお香などの化学的なにおいのほうが消臭は難しいです、部屋で孤独死が起きにおいが取れなくてお困りの人は是非まごのてに相談してみてください。
記事執筆:

株式会社まごのて 代表取締役
佐々木久史

主に特殊清掃技術の開発や指導に注力しています。まごのては宅地建物取引業の免許を受けており私は専任の宅建士です、また賃管士資格を保有しており不動産取引関係には精通しています。 

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